大阪公演ライブレポート


 
 東京公演から3日後、有安杏果のライブ『サクライブ 2019 ~Another story~』が大阪・なんばHatchにて開催された。
東京公演のレポートでは大枠を描写することに留まったため、ここでは内容を具体的に綴って、有安杏果の音楽性・表現の幅の広さを伝えながら、この記念すべき再出発の始まりを残したいと思う。

 3月27日、開演予定時刻の19時ちょうどに公演がスタート。”Another story”“ヒカリの声”を続けて演奏していく。
ポニーテールに髪を縛って黒いパンツと赤いスニーカーを履き、赤いエレキギターを抱えながら観客を指差したりギターソロをキメたりする有安の姿は、ロックシンガーさながらだ。

 最初のMCでは、冒頭から涙を流していた東京公演とは違って、テンション高く、元気ハツラツな様子で「大阪ー!!」と叫ぶ。ここに帰ってこられたことの喜びを爆発させているかのようだった。
 
 
 “色えんぴつ”では、エレキギターを置いてマイクを手に持ち、1番はピアノと歌だけで聴かせる。
<僕にだって出来ることあるんだ>という言葉を、アカペラで、強い意志を込めながら、会場にいるすべての人へ届けるかのように歌い上げた。

 続く“ペダル”でも、<でもよく見てごらん 奇跡の種 転がってるから>という言葉を、すべての人へ教えてあげるかのよう丁寧に歌う。
これまでの道でたくさん迷って悩んだ挙句、大きな一歩を踏み出した有安だから伝えられること、でも今も不安がないわけではない有安だからみんなと共有できること、その両面がある。
彼女が自分の心をリアルに映し出した表現には、どれほどの深みと説得力が帯びるのかを、確実に示す2曲だった。
 
 “Catch up”のイントロが鳴り始めると、有安はステージ前方へと飛び出す。ファンの目を見ながら、手を振りながら、ステージを駆け回る。 しかも間奏とアウトロでは、ダンスも披露。そのあと「ゆっくり聴いてほしいなと思ってる曲です」と言って歌ったのは“裸”。
ピアノ・宮崎裕介と目を合わせて、ピアノの音色と「ハーア」という声を編み込んでいく音像には、色っぽさと侘しさがあった。

 演奏後に拍手が沸き起こるなか、バンドメンバーはステージを去って、有安だけが残る。
ピアノの前の椅子に座り、“心の旋律”を弾き語りで披露。<歌いたい、歌いたい 握ったマイクもう離さない>という、今の有安が抱く決意と祈りにも近い感情を、歌とピアノに乗せて表した。

 歌い終えたあと有安は、ステージ前方の、ぎりぎりステージから落ちない際まで行って、深々とお辞儀をする。その姿にも決意と、感謝の気持ちが溢れ出ていた。
 
 そして「人生最大の買い物を更新した」と言って新しいアコースティックギターをみんなへ紹介したのちに、この日のために作った新曲“サクラトーン”を披露。
ピンク色の照明を浴びながら、<ひらひら落ちる 桜ひとつひとつを拾い集め ここから誰もが行ったことない道へ>と歌う。
偶然にも、3月27日は「さくらの日」だという。

 しかしここで、思わぬアクシデントが発生。有安が急に「ストップ!」と声をかける。
フロアで倒れた人を見つけた有安は、曲の途中で演奏を止めて救助を求めた。「私は何度でも歌うから」「みんな教えてくれてありがとう」とファンを安堵させたり笑わせたりしながら、困っている人を助けつつ、その場を和ませる有安。
そして「(倒れて外に出てしまった)2人にも届くように歌いたい」と言って、“サクラトーン”を歌い直した。

 そのあと、全員で記念写真を撮影。会場に来てくれているファンの年齢を聞く流れになると、「10代」と「20代」を呼びかけたときに特に多くの手が挙がるなか、最高年齢は2階席に座っていた70歳の男性だった。
 
 “Drive Drive”ではタオルを振り回し、“TRAVEL FANTASISTA”ではサビで手を左右に振り、“遠吠え”では大人な女性の一面を見せる。
[ALEXANDROS]・川上洋平による英詞混じりのロックナンバーも、Official髭男dism・藤原聡によるモータウン調のピアノポップスも、風味堂・渡 和久によるジャズファンクな歌も、有安の力量を発揮しすべて変幻自在に歌いこなした。

 そして「残りあと2曲なんです」と言うと、「えー!」と、フロアからこの日一番の大きな声が上がってしまう。そこで、「今も震えてくるくらい、嬉しいお知らせ持ってきました!」と告げる有安。全国6か所を回るツアー『有安杏果 Pop Step Zepp ツアー 2019』の開催を発表すると、さっきの声を上回るほどの大歓声が上がった。

 「こうやって次のライブが決まってる、やらせてもらえるっていうのが、本当にすごく嬉しいことなので……今日寝て明日から準備します!(笑)」と意気込みを語りながら、「久々に喉がヒリヒリして、逆に嬉しいです。ライブでしか味わえない、この五感で楽しめてる感じがすごく嬉しいです」と、ライブができることの幸福感を表した。
 
   最後は、“小さな勇気”“feel a heartbeat”を続けて演奏。“小さな勇気”では、イヤモニをわざわざ耳から外し、<遠くのどこかで頑張ってるあなたに 届くように>とアカペラで、遠くまで伸びる声で響かせる。
そして“feel a heartbeat”を爽やかに歌い上げ、バンドメンバーである山口寛雄(Ba)、波田野哲也(Dr)、宮崎裕介(Key)、福原将宜(Gt)と、「今日一緒に拍手と声という素敵な音を奏でてくれた1748人のみんな」を紹介し、最後は全員でジャンプをして陽気な温度で本編を締めくくった。
ステージを去る前にギターピックをフロアに投げ入れる有安も、めちゃくちゃ笑顔だった。
 
 「杏果コール」が鳴るなか、バンドメンバー、そして有安杏果が再びステージへ。アンコールは、ライブのグッズTシャツにロングスカート、お団子ヘアー姿で登場した。

 まず歌った“愛されたくて”では、絨毯のうえでジャズのリズムに合わせてステップを踏む有安に、少し背伸びをした艶っぽさを感じた。
そして、有安のライブで恒例の“逆再生メドレー”へ。しかも、全曲別アレンジバージョンだ。スローテンポの“feel a heartbeat”から始まり、ロックバージョンの“小さな勇気”、ボサノバ風の“TRAVEL FANTASISTA”、サンバリズムの“Catch up”、ハードロック調の“色えんぴつ”など、オリジナルバージョンとはまったく違う魅力を見せながら、有安が秘めている音楽性の幅広さをこのメドレーで示した。

 この日は東京公演と違って涙を見せていなかったが、ここにきて、「我慢してましたが、もう我慢できません」と言って涙をこぼし、「こういう活動をまたやろうと決めてよかったと思いました」と声を震わせると、鳴り止まない大拍手が上がった。
 
 そして、大阪では最後に歌った新曲“虹む涙”を披露。<飛ばしすぎたら 疲れちゃうから 小走りくらいがちょうどいい>という言葉も、怒涛の活動をやってきたうえで今自分のペースを取り戻そうとしている有安のリアルが反映されているようだった。
そして「帰りたくないわ。最後にもう1曲やっていい?」と言って、新しい相棒のアコギを抱えながら“ハムスター”を弾き語る。そこには、ハムスターのように回り続けて足元の幸せを見失っていた時期を乗り越えたからこそ、他の人に伝えられることがある有安の姿があり、CDに録音されている曲とはまた違った明るさが宿っているように聴こえた。

様々な曲調を歌いこなしながら、自分のリアルを昇華した歌を作り、ダンスも披露する有安杏果。
自由な表現をするために再び立ち上がった彼女がこの先、そのプロフェッショナルな吸収力で努力を積み重ねながら、決して器用だけじゃない、不器用な一面の人間臭さも交えて表現するものの可能性は計り知れない。そう感じさせてくれた『サクライブ 2019 ~Another story~』だった。

テキスト: 矢島由佳子

 
ライブレポート(東京)はこちら